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普及に「強硬策」なぜ?マイナンバーカード取得を事実上義務化 24年秋に廃止する健康保険証の機能と一体に

普及に「強硬策」なぜ?マイナンバーカード取得を事実上義務化 24年秋に廃止する健康保険証の機能と一体に

2022年10月14日 06時00分

マイナンバーカード(一部画像処理)

 河野太郎デジタル相は13日、現在は紙などで発行されている健康保険証を2024年秋で廃止し、マイナンバーカードと一体化させる方針を発表した。カード普及に向けた政策はマイナポイント付与など従来の「アメ」から、事実上の取得義務化による「ムチ」へ転換した。(森本智之、山口登史)

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◆運転免許証との一体化も前倒しへ

 カードを保険証として利用する「マイナ保険証」は昨年10月に導入された。デジタル庁はカード取得について今後も「任意」とする。保険証廃止後のカード未取得者の診療に関して、デジタル庁幹部は「保険証ではなく、何らかの方法で対応する」として、厚生労働省と検討を進める考えだ。

 河野氏はカードと運転免許証の一体化について、目標としてきた24年度末を前倒しする方向で警察庁と検討を進める考えも表明した。だが、保険証のように、免許証の廃止は検討していないという。

 

 このほか、スマートフォンへのカード機能の搭載について、米グーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」の端末を対象に来年5月11日からサービスを提供する。ただ、米アップルのOS「iOS」を搭載するiPhone(アイフォーン)への対応は「決まり次第お知らせする」と、時期を明言しなかった。

 総務省によると、11日現在のマイナンバーカード交付率は49.6%。今年6月からは取得者に最大2万円分の電子ポイント「マイナポイント」を付与するキャンペーンを展開し、9月中には新規申請が1日当たり約20万件を超えるなど急増していた。ただ、個人情報漏えいへの懸念や取得の手間などから、国民の半数が取得していない状況となっている。

 

◆政府目標「来年3月に全国民取得」に躍起

 「最後に追い込む上で硬軟を使い分けている」。来年3月にほぼ全国民がカードを取得するという政府目標の期限が迫る中、デジタル庁幹部は、健康保険証廃止がカード取得を促すための強硬策であることを認める。

 

カードと保険証が一体化した「マイナ保険証」の未取得者への具体的な対応策については説明できず、普及に前のめりな政府の姿勢が鮮明となった。

 

 国はこれまで、カードを持つことで得られるメリットを増やし、国民に自発的に取得を促す方式だった。マイナンバーの制度設計に携わった官僚は「取得には一定の手間が必要。制度に批判的な人もおり、強制的に交付することはできなかった」と述べる。

 

 2016年の制度開始からカードの普及率は低迷。「情報漏えいなどマイナンバー制度への不信に加え、政府に個人情報を握られるのでは、という拒否感が大きい」とみられていた。そこで政府が普及の「アメ」として打ち出したのが、カードを申請すると電子マネーなどに交換できるポイントがもらえるマイナポイント事業だ。

 

 最大5000円を還元するマイナポイント第1弾を20年9月に、最大2万円に増額した第2弾は今年6月にスタート。普及は一気に進み、交付者数は国民の半数近くとなった。ただし事業の期限は12月末で、普及のさらなる上積みは難しい情勢だった。

 

 デジタル庁幹部は、国民の半数近くが取得したことが、強硬策に転じた「判断材料の一つになった」と認める。その上で、別の幹部は「どこまで普及を進めても取得しない人は残る。どこかの段階で判断は必要」と述べた。

 

 「マイナ保険証」を取得しなくても、保険料を支払っている人が保険診療を受けられる仕組みを政府は維持する方針だ。関係者によると、被保険者であることを示す証明書の発行などを検討しているという。

 

 だが、具体策作りはこれからで、公表の時期も決まっていない。河野太郎デジタル相も13日午前の会見でカード未取得者への対応を複数回問われたが、「理解いただけるようしっかり広報する」と繰り返すだけだった。


費用対効果が悪すぎるマイナンバー制度事業…国は検証不十分

費用対効果が悪すぎるマイナンバー制度事業…国は検証不十分

2022年2月13日 09時00分

 

 利便性の向上や業務効率化につながると国が旗を振ってきたマイナンバー制度。その要となる情報連携の利用が、想定を大きく下回っていた。多額の税金を投じる一方で、費用に見合うだけの効果を生んでいるのか、国は費用対効果を十分検証しないままだ。

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 2021年3月の衆院内閣委員会で、当時首相だった菅義偉氏は、マイナンバー制度に関して国が支出した費用は過去9年間で8800億円に上ると明らかにした。党から「コストパフォーマンスが悪過ぎるのではないか」と指摘されると、菅氏はこう語った。「確かに悪すぎる」

 

 それから1年、マイナンバーカードの普及率はいまだ4割程度だ。国はカード普及のため、さらに1兆8000億円を投じようとしている。カードのメリットを盛んに強調するが、その費用対効果にまで言及することはほとんどない。

 

 費用対効果に触れたがらないのは、中間サーバーというシステムを通じて行政事務に必要な個人情報をやりとりする「情報連携」においても同様だ。

 情報連携が始まった翌年の18年5月、内閣官房はマイナンバー制度の効果を試算し、政府のIT関連の有識者会議に示した。

内閣官房が試算したマイナンバー制度の効果。「事務効率化」「発送費」などの項目が列挙され、数値化されている

 試算結果をまとめた資料には、年間の効果として行政機関には「1798億円程度」、国民や事業者には「2629億円程度」と算出。内訳として、住民票の写しなどの発行や文書照会の削減で「事務効率化565億円」、各種証明書の発送費削減で「85億円」などと記されていた。

 

 ただし、実際の効果は判然としない。その後の有識者会議の議事要旨を調べても、国が検証した形跡は見当たらない。マイナンバー政策の司令塔であるデジタル庁に確認しても、12日までに回答はなかった。

 

 自治体に現場の実情を聞いてみた。神奈川県内の自治体担当者は「情報連携で全体として現場の事務負担は減った」が、別の負担が生じるようになったという。例えば、国民健康保険料を算出する際、これまでは証明書を1度提出してもらえば事足りたところ、個々の情報ごとに関係自治体に照会しなければならなくなった。

 

 情報連携の効果について「答える立場にない」とする地方公共団体情報システム機構は、18年度に研究会をつくり、自治体職員から効果や課題を聞き取っていた。機構は「自治体限定で共有している情報なので中身は言えない」として、研究会での議論を明らかにしていない。

 

◆国の想定は残り1年で「ほぼ全ての国民がカード持つ」

マイナンバーカードの表面(見本)

 マイナンバーの利用を巡っては、カードの普及でも、「2023年3月末までにほぼ全ての国民が持つ」という国の想定と大きな開きがある。政策をけん引してきた関係者は、残り1年での目標達成は難しいと認める。

 

 カードの交付が16年に始まって以降、発行枚数は一貫して低調だった。国がてこ入れ策の柱としたのが、マイナポイント事業だ。カードを取得した人に最大5000円分のポイントを付与する第1弾の事業の結果、発行枚数は急上昇。今年1月に5000万枚を突破し普及率は41%に達した。

 

 この成功体験を受け、最大2万円分を還元する第2弾として事業費1兆8000億円余が、昨年末成立の21年度補正予算に盛り込まれた。政府内でも「選挙目当てのばらまき政策だ」との批判は根強い。

 

 国の想定を達成するにはあと1年あまりしかなく、残る6割の国民がカードを取得する必要がある。マイナンバー政策に携わってきた関係者は「ポイントの威力は大きい。私の想定以上の伸びだ」と誇るものの、達成について問われると「政府想定は高めだ」とぶぜんとした表情を浮かべた。

 

 制度設計に携わった別の関係者も「想定は過大に設定されている」と認める。たとえば、カードが普及する前提で制度を進めなければ、医療関係者らに設備投資などの負担を強いる健康保険証との共通化なども難しかったという。「目標を下げると周囲の人たちが付いてこない」というのだ。

 

 ポイント制度だけでなく、カード普及に向けてあらゆる費用を公費負担しているのが現状だ。かつての住民基本台帳カードは発行手数料が必要だったが、マイナンバーカードの場合は取得にかかる費用は原則ゼロ。この関係者は「一気に進めないと普及のチャンスを失うという意識が強くある」と話す。


マイナンバー事業費、2.6倍の1655億円超に膨張 異例の契約変更数と増額規模

マイナンバー事業費、2.6倍の1655億円超に膨張 異例の契約変更数と増額規模

2022年1月9日 06時00分

 

 国のマイナンバー政策の中核を担う地方公共団体情報システム機構が2014~16年度に発注した関連事業費が、当初契約から約2・6倍の1655億9000万円に膨張していたことが本紙の調べで分かった。発注後に契約内容を変更するケースが相次いだためで、1つの事業で29回も変えた事例もあった。IT事業に詳しい識者によると、契約変更の多さや増額の規模は異例という。(デジタル政策取材班)

 

 本紙が機構から資料提供を受け、マイナンバー導入初期に業者へ発注した事業78件について、20年度末時点の進捗を調べた。その後、21年度に入ってからも変更されたものがあり、事業費はさらに膨らみそうだ。

 

◆1事業で29回変更し費用1.7倍の例も

 78件のうち半数弱の37件で契約を変更し、うち15件が4回以上変更を繰り返していた。最多の29回は、地方自治体が保有する個人情報を他の行政機関とやりとりするために必要な拠点「中間サーバー・プラットフォーム」を整備・運用するための契約。契約金額は当初から70%増の335億2000万円に膨らんだ。

 

 変更の理由には、国の政策判断を受け、実務を担う機構が契約を見直さなければならなくなったケースが目立つ。そのほか、システム利用者からの要望などで機能の追加や改修を行っていた。業者と契約を継続するためのやむを得ない変更もあったが、発注時の想定が外れたことで改善を余儀なくされたケースもあった。

 

◆機構「当初見込めなかった事情。変更契約での対応は適切」

 地方公共団体情報システム機構の話 マイナンバーカードの発行枚数増加への対応や、システムを利用する中で市区町村や住民の利便性を考慮し、必要な改善を行った。当初契約では見込めなかった後発的な事情があり、その内容を鑑みて既契約と一体的に管理する必要があるものを変更契約として対応したと考えており、適切に行われているという認識だ。

 

【関連記事】マイナンバーカードの普及進まないのに事業費膨張… 原因の相次ぐ契約 変更の3タイプとは?

 地方公共団体情報システム機構 総務省とデジタル庁の所管。住民基本台帳ネットワークを運用していた総務省の外郭団体などを改編し、地方自治体が共同で運営する法人として2014年4月に設立された。マイナンバーカードの発行や関連システムの運用などマイナンバー事業に関わる実務を国や自治体に代わって担う。事業費の多くは国や自治体からの公金で賄われている。20年度上半期までのマイナンバー事業の発注額は当初金額ベースで1300億円を超える。21年2月1日時点で、職員268人のうち63人が民間企業からの出向。

 

◆識者「業者選びに競争性働かぬ影響も」

 マイナンバー事業にも関わったITコンサル会社の元社長の伊藤元規氏は「長く官公庁のシステムの受発注に携わったが、これほど契約変更を繰り返すのは見たことがない」と驚く。

2020年5月、マイナンバーの相談などで混雑する区役所

 契約後に変更すれば発注責任を問われかねず、受注者も追加費用をかぶる恐れがある。伊藤氏は「受発注者双方にとって、変更は本来非常にシビアなものだが、常態化してしまっている」と指摘。「業者選びに競争性が働いていないことが影響した可能性もあるのでは」と見立てた。

 

◆デジタル人材乏しく、民間依存体質が背景?

 機構の発注事業を巡っては、2014~20年度上半期までで、その8割が随意契約や一者応札といった競争を経ない方法で受注業者を選定していたことが、本紙の報道で判明している。さらに随契で発注した事業は、社員を機構に出向させていた特定の業者に集中していた。情報システム関連の公共事業では行政側にデジタル人材が乏しく、民間事業者に依存しやすい問題が指摘されている。今回もこうした双方の緊密さが背景にうかがえる。

 

 契約変更があった37件のうち、コールセンター業務などをのぞく情報システム絡みの事業は21件。このうち、随契や一者応札で受注者を選んでいたのは19件に上る。

 

 伊藤氏は「仕方ない契約変更もあるが、安易に変更を許すようなら、費用が安くなることはない」と警鐘を鳴らす。

【関連記事】【独自】マイナンバー事業の業者選定8割が競争なし 随意契約を乱発する機構


独自】マイナンバー事業の業者選定8割が競争なし 随意契約を乱発する機構

独自】マイナンバー事業の業者選定8割が競争なし 随意契約を乱発する機構

2021年4月27日 06時00分

 

 総務省所管でマイナンバー事業の中核を担う「地方公共団体情報システム機構(J―LIS)」が民間企業などに発注したマイナンバー関連事業の74%が、競争を経ずに受注先を選ぶ随意契約(随契)だったことが本紙の集計で分かった。国発注のデジタル事業全体と比べても随契の多さは際立っている。競争入札に一事業者しか参加しない一者入札を含めると、全体の81%の業者選定で競争が働いていなかった。 (デジタル政策取材班)

 

【関連記事】「競争意識は強く」との回答とはかけ離れた実態…マイナンバー事業の閉鎖性

◆契約金額も高騰

 国の事業は会計法で競争入札が原則で、機構にも同様の規定がある。機構には巨額の税金が投じられており、閉鎖的な業者選定の妥当性が問われそうだ。

 機構が本紙に開示した資料によると、機構のマイナンバー関連事業は2014~20年度上半期までで、207件、当初の契約額で総額1300億円を超える。このうち随契は74%の154件で、契約額は計約616億円に上った。随契の受注先はNTTコミュニケーションズやNECなどの大手企業が中心だ。

 一者入札は15件で契約額は計約404億円。随契分と合わせると、契約金額ベースでも73%に上った。

 競争が働いていないと契約金額も高くなりがちで、予定価格に対する落札額の割合を示す落札率は、随契が平均92%、一者入札が75%になった。二者以上の競争入札は60%だった。

 一方、2019年度の国発注のデジタル事業では随契は38%にすぎず、一者入札を合わせた割合は76%だった。

 

◆マイナンバーに8800億円投入

 マイナンバー制度は、国内の住民にそれぞれ固有の番号を割り振り、税や社会保障などの個人情報をひも付けする仕組み。13年にマイナンバー法が成立、16年にマイナンバーカードの交付が始まった。過去9年で国費支出は累計約8800億円に上る。

 菅政権は今国会でデジタル庁創設を柱とするデジタル改革関連法案の成立を目指す。マイナンバーカードの普及拡大のため法案では国が機構の関与を強めることも定めている。

 

地方公共団体情報システム機構(J―LIS) 住民基本台帳ネットワークを運用していた総務省の外郭団体などを改編し、地方自治体が共同で運営する法人として2014年4月に設立された。マイナンバーカードの発行や関連システムの運用などマイナンバー事業に関わる実務を国や自治体に代わって担う。

 

事業費の多くは国や自治体からの公金で賄われている。カード発行の場合、市区町村が機構に必要枚数の製造を委任し、その費用は総務省から交付金という形で市区町村を経由して機構に支払われる。

 

◆民間に頼らざるを得ない構造

 随意契約や一者入札の多さは、J―LIS発注のマイナンバー事業が民間企業に依存している実態を映している。これは菅政権の看板のデジタル政策全般にも共通する構造的な課題だ。

 行政側にデジタル人材が乏しいため、政策の遂行には民間の力に頼らざるを得ない。加えて、巨大事業ほど受注能力で大企業に限られ、特定の企業におんぶに抱っこになりやすい。受注競争が起きなければ契約金額が高止まりして税金の無駄につながりかねない上、一部の企業への接近は官民のなれ合いを生みやすい。

 

 過度な民間依存は事業の質に影響する恐れもある。新型コロナウイルス対策のアプリ「COCOA」で相次いだ不具合では、事業者任せで国がプロジェクトを管理できていなかったことが原因の一つと指摘された。平井卓也デジタル改革担当相も「発注者(国)の能力が低いことがいちばんの問題だ」と認める。

 1990年代以降、業者選定における競争性の乏しさは会計検査院などから何度も指摘されてきたが、政府は改善できていない。コロナ禍、菅政権がマイナンバーを含め行政のデジタル化を急ぐ中で、民間依存からの脱却は急務といえる。

◆随意契約は例外

J―LISの西川仁管理部担当部長の話 機構でも競争入札が原則で随意契約は例外。随意契約の割合が高いままでいいとは思っていない。なるべく案件を切り分けて発注することで企業の参入を促すなど、競争性が発揮されるような発注に取り組んでいく。

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